水田典寿   2015.05


《爪 角 羽》展    Gallery SUにて 
《爪 角 羽》展   Gallery SUにて 

何かに偏ることなく
はかなさと強さ・・・そんな空気をまとったもの達を作りたいと思う。
時間がとてもゆっくりと流れていく場所にひっそりとあるような
ささやかに寄り添うもの。
 水田典寿 (HPより引用)

海辺や町中、旅先や国内外の骨董屋さんから拾い集めてきた物や道具、廃材を利用して制作を続けている水田典寿さん。 今回の個展タイトルは《爪 角 羽》。前回の個展《冬の朝》からはまた印象がガラッと変わったように感じました。 Gallery SUの独特の空気感と水田さんの作品があたかも昔からそこにあったかのようなしつらえで来場者を迎えてくれます。
まるで部屋全体が小さな標本箱のような雰囲気。かがんでみたり引き出しを開けてみるような感覚で、好きなだけ自分の時間を過ごすことができるような場所でした。拾い集めた物や制作途中でもしばらくほっておいたり、自然に熟成されて作品が生まれるその過程についてもお聞きしました。

《爪 角 羽》というのはタイトルというわけではないのですが(笑)。今回の最初の作品はこの爪(4つ並んだ爪の作品の入り口の方角から数えて2つめ)これですね。僕はこのテーマが決まる前から作りだしたもので、5年くらい前かな。でも発表はしていなかったんです。
そういうことって結構あるのですか?

そうですね。結構あります。展覧会場のイメージに合わせて出展するということもあるので、家に残しておくこともあります。これは発表したいと思っていたんですが、今回の軸みたいなものになりました。

ー見まちがいからはじまる

このイメージはどのようなきっかけから?(写真下)

羽の部分はヤシの皮なんです。これを見つけた時に「あ、翼みたいだな」って思って。鳥をまるまる彫るというよりは、パーツパーツで切り出していって、その全体をイメージさせるものというのが作れるかなと思ったんです。基本的にきれいな形をどう見せたいかを考えていて、あんまりコンセプトにはとらわれない。きれいに見えたというだけなんですね。見ていて、そんな感じに見えたから作ろう~という感じ(笑)。そこを大事にしているんです。家具についても同じで、客観的に見たいから。何かと何かが重なった時に見える形とか、たとえば背もたれのない椅子の背景に何かがあって、振り向いて見た時に背もたれに見えたというような。

あ~!あるある。錯覚のような

素材自体の形から連想したりとか。何かに見えたというところからスタートすることが多い。そして作り上げていって、また途中で一歩引いてみるとか。古道具屋さんの隅にがちゃっと壊れて置いてあるものを見て、それを欲しいと思うかなと考えてみたり。造形物にしても、そう見えたからそこを引き出していこうとするんですね。そしていくつか作っていくうちに自分の中のその時の傾向みたいなものが出てくるので、それを客観的に確認しつつ「あ、今回はこういうテーマなのかな」と気がついた時点から又制作が始まるという感じです。素材を探したり、形を作っていくみたいな。

そこからはトントントンといくわけですね?

ん~、あんまり制作に関して苦しいとは感じないですが、大変は大変です(笑)、普通に日々作り続けている感じですね。手前の2つが昔いっきに作って、後の2つが最近ですね。(4つの爪の作品を指さして)

昔作ったものと少し時間が経ってから作ったものでは、なにか感触がちがったりしないですか?

気持ちの面では変わらないですね。でも毎回、一個作ったら作り方忘れちゃうんですよ(笑)。毎回、どうしようかなとその場で決めていくのでその時々でちがいますね。それに具象である以上、適当ではいけないので形にしようと集中しますよね。

ー実際のリアルではなく

その形を探るという段階で、動物園に行ったりとかされる。

それもありますね。どういう形だったっけなと具体的なちゃんとした形を見てみないと。見ながらではないですが。たとえば、魚だったらここに目があって、ここにヒレがあってといういうように。僕は子どもの時から生き物が好きなんですけど。そういう確認はします。うっかりすると全然違ったりするから。全然ちがっていても、それはそれでいいとは思うけど。ただ、その中のポイントみたいなのがあるんです。ここをしめておけば角っぽく見えるというような。形がリアルでもとても気持ちの悪いものになるってことあるでしょう。羽っぽくとか角っぽく見える自分の形を見つけるというか。実際のリアルというよりも、自分の中の詰めなきゃいけないポイントを確認する上で実際に見に行ったりとか、資料とか写真とか見たりします。何度か見て、その形をインプットしたらもう後は見ないですね。ん~、具体的なことはなかなか言葉にしにくいな。太さのバランスとかいろいろあるのかな。

この角も、こんなに根本まで太いということはないんだけど、このラインがきれいだからとか自分の中の角のイメージに近づいているといいんです。こんなブツブツと穴が開いている角はないですが、鹿の角とか細かい模様があったりするでしょ。そのイメージは近いなと思ってそういう形状の角を作ったりします。

毎回多様な作品が現れるのでびっくりします。

そうかな。ずっと作っているだけ。でもだいたい毎回展覧会に作品が数点間に合わないんです(笑)。いろいろとこういうものを作ってみようというものがあって、でもそれが技術的にとか時間的に間に合わない。だから、それをずっと考えてますね。自分の中に腑に落ちているものは、何年後かに形になって現れてきます。

いつも考えてる。いつも作ってる。いつもなにかを温めているって感じ。

生活の一部として「作る」ということがうまく循環していけばいいなと思ってます。

で、絶えず拾い続けると(笑)

そうです(笑)。そうなんです。

ー絶えず拾っています

どういう時にどんな感じで拾って集めてるのかなぁって毎回作品を見ながら気になってるんです。今回はガラスの本は次の展開を心待ちにしていますし。私にとっては、あの「アルマジロ」君がとても秀逸で、椅子の一部というのがもうツボでした。

ほんと、あれもそう見えたというだけなんですよ。友だちの家具を直している工房に行った時に、あの座面を捨てるといって落ちていたので、あれアルマジロに見えるなぁーって。

おもしろいですね。そういうのって、絶えず拾ってるんですか?

絶えず(笑)、、、拾ってます。なんかしら。

海に行かれたり、昔だと海外でもいろいろと見つけてこられることもあったとお聞きしますけど、最近では、歩き回るところって決まってるんですか?

決まってないです。ほんとず~っとです。ここ来る時もそうだし。ず~っと。

今日、収穫ありました?

いやいや、いつも拾うわけじゃないですよ(笑)。この道のどんづまりのちょっと手前に、なんか針金のむにゅむにゅっとしたのが落ちていて。

ちっちゃいな!

何になるかわからないけど、面白い形だなって毎回見ながら歩いてます。いつもあるから、会期中からずっと。

それをじっと見ながら行き来しているわけですね。。。

そう。拾っても何にもなりそうにないとわかってるから。でも最終日までに、それに何か思いつけば拾うかもしれないし、思いつかなくても、どうしよう、拾っておこうかどうしようかってところはありますね。こういうことって多いです。昔はけっこう拾ってた。

そういうおじいちゃんを知っています。友人のお父さん。ものすごい量のコレクションで家族も面白がったり困ったりで。

やっぱり!!(嬉しそうに)僕もそんな感じかも。でも最近はすごく吟味しています。

フワッと見る

いつも目を皿のようにして路上を歩いているのですか?

なんかフワッと見てますね。

よかった。いつもくまなく見ているのかなぁって思ったから。

はは。そばにいた友人がよく見えたね!って言われることもあります。

建物とか路地でとか「あれっ⁈」って立ち止まることってあるじゃないですか。後戻りしてみたり。

ぜんぜんしますね!車止めて見に行ったりします。

そういうことすると一緒にいる人が困りますよね。

あはは!

ということは、この会場内にもそうして何度も見ては考えて拾ってきた素材があるんですね。

そうです。流木なんてそうですね。浜辺を何キロってくらい長い距離歩いて、これだ!というものは拾って固めておくんです。だから何か所かに集積所みたいなところができるわけ。それで戻りながら、集めた中から最終的に持ち帰るんですね。一回目は拾わないけど何往復かした時に絶対に目につくものがあるんです。造形物として拾う流木の中には、拾って、また捨てて、でもどうしても気になるものをまた拾って持ち帰る。一発で決まるものは板のような材料となるものですね。

湖より海?

海の流木が好きですね。湖はあまり行かないかな。海の流木の方が硬いように思う。山から川に流れてきたものが海に辿り着く。柔らかい部分が腐っておちて、芯の硬い部分が残っていく。時に虫が食ってフワフワな部分は樹脂をしみこませながら彫ったりします。

山内 彩子さん   Gallery SU 主宰
山内 彩子さん  Gallery SU 主宰

ー場と空気感を大切にしたい

水田 ふだんはギャラリーの空間によって展示を決めるので、多めに作品をもってきて、持って帰るものも出てくるという。空間として成り立たないと困るから、それだったら頑張って多めに作りもってきます。一番多い時で半分くらい持って帰ったこともありました。

山内 彩子  ( Gallery SU 主宰) そうなんです。「あ、それ、持って帰っちゃうんですか?」ってこともあって(笑)「はい、これは飾りません!」と潔く言われてしまって。展示空間は作家の聖域だと思うので、全てお任せしています。(写真上)

水田 (笑)

そうですね。空間づくりも作品づくりと同様かそれ以上に時間と手間をかけられますよね。

水田 そこが最後の締めなので、当然ですね。それがないとすごく頑張って作っても意味がなくなってしまう。僕はものが作りたいというより、空気感を作りたいんです。ひとつひとつのものが発しているもので空間ができあがり、結界というわけでもないですが、そういうものを作りだしたい。だから展示が重要な意味をもつんです。そこがとても疲れるところであり、大切なところ。作品を売る場所でもあるので葛藤はあるんですが。しっくりくるまで、あらゆることを試します(笑)。音がするくらいピッタリとくる場所があったりするんですよ。モノがはまる瞬間というのが空間を作るときにあります。

アトリエ訪問した時に、標本箱みたいにたくさんの標本がありましたね。いろいろ収集されているのだなと思いました。 標本は使わないのだろうなと思いましたが。

水田 標本は使わないですね。収集と材料は分けてる!

話が前後しますが、作品の色は天然のものですか?

水田 いえいえ、だいたい色を入れています。色の材料についてはこだわりはないですが、薄くいれて拭きあげたり。

作品はいくつかのパーツをつなげていると言われますが、つなぎ目を気にするというより素材ひとつひとつの形を生かしながら 合わせてみて、ひとつの作品にしていくという感じなんですね。

水田 そうですね。だから作業的にはとても非効率です。合うパーツを探したりするわけですから。ぜ~んぶが効率が悪い(笑)

でも楽しい⁈

水田 作っている時は必死ですけどね。何かがない~と言うと、なんか心の喪失感みたいに受け取られるかもしれないけど。でも、ホントに「なにか足りないな」って思うし、わかるんです。でも「何か」がわからない。それを探す。完成形が見えない。

流木やガラス、鉄、木材、廃材など様々な素材を自在に扱って、造形物を作られますね。

水田 テクスチャーが好きなんですね。味があって錆びていたり、朽ちていたり、欠けていたりと時間を感じるものが好きですね。  苔むしていたりとか。ナチュラル系とか言われることもありますが、そんなこともなくて。ここ数年は拾い物の中には、発泡スチロールやゴムの燃えかすとかも使いますね。Fuuroで展示した羊はゴムの燃えかすを使っていますよ。

あの作品は溶けた感じが羊の羊毛のようで面白かったです。これは水田さんの独特の感性ですね。羊は?

自宅にあります。少し大きいし、存在感の強いものはなかなかよそにはいかないですね。(次の個展で購入先が決まりました)

~ここで作品のサイズや色など作品としては妥協できないが、家具などについてはクライアントの要望に応えるのは苦ではないという話題に少し触れ、ギャラリーと作家の関係性について話題がうつった。
ギャラリーと作家の関係性って大事だと思っているんです。企画をしていただきますよね。売れなかったのはギャラリーのせいではもちろんないし、作家も売る為の努力をするし、その緊張感をもっていないといけないと思うんです。だからといって売れるものを作ろうとは思っていなくて、自分の作品をどのように伝えていくかを考える。

作品が手を離れていきますよね。その後どうなったかということをお聞きすることもあるかと思いますが。

そうですね。コレクターの方のお宅に納品に行くと、以前の作品と会うこともあります。再会は嬉しいですね。作品がその家に馴染んでいて。ちゃんと選ばれたところにおかれてあるという印象をうけます。初期作品などを見ると、ちょっと恥ずかしいけど嬉しいですね。Antosからのファンでおられるので 相方の作品もあったりして懐かしいです。

(会場を歩きながら)オブジェもあり用途のあるものもあり、存在感のある作品。ひとつひとつのエピソードを想像したくなります。作り手としてはあるがままというか、作りつつ拾いつつ、拾いつつ、作りつつという循環なのでしょうか。作りこんだ部分と拾ってきた部品の見分けがつきませんね。一体化している。

生活をしながらというのが主体なので。「爪」のイメージは守りたいもの、離したくないもの。コンセプチュアルにとか、自分が何を探求していくのかということではなく、作りたいものをただ作っていくだけなんです。 

Gallery SU
Gallery SU

編集後記
たとえば作品の気になる部分や素材についてお聞きすると、これは以前フランスに行った時に骨董市で買ったパーツで脚に加工し、廃材の板を円形にカットし、ガラス製のメモリのない点滴をつけている。メモリがないなんてめずらしくて購入したものです~と物語が始まります。
気になる作品があったら、ぜひ水田さんに声をかけてみてください。もしかしたら思いもかけないエピソードや「そうそう!」と自身の記憶と重なるような出来事がでてくるかもしれません。昭和11年頃に集合住宅として建てられた木造の洋館「和朗フラット4号館」の中にあるGallery SUさんの空間がとても好きという水田さんとGallery SUのオーナー山内 彩子さんとのお話もとても興味深く、建物とオーナーと作家との幸運な出会いを感じました。最後にギャラリー内でのインタビューを快く協力いただいた山内彩子さんに心より感謝もうしあげます。

                              撮影 水田典寿 
撮影 水田典寿 

 

~次回展覧会情報~

「記憶と時間」
2015.11.7(sat)-12(thu)
11:00-18:00(最終日17:00まで)
かぐらざか五感肆(ごかんし) パレアナ
〒162-0816東京都新宿区白銀町1-2 tel 03-3235-6951

水田典寿  http://www.neutral.jpn.com/
1977年 東京都生まれ
2003年 廃材や流木等を使い家具や彫刻等の制作を開始
2004年 小林寛樹とantosを結成。年に数回個人での活動と共に各地で個展を開催。 

 

 

近年の活動
2011/2 「museum piece 時代遅れのもの」 ART SPACE 繭 京橋
2013/4 「水田典寿・加治佐郁代子 2人展―祈祷―」 Gallery K
2013/8 「海辺の家」 Baden Baden
2014/3 「小さな部屋」 FUURO 目白
2014/5 「物語の始まる日」 ギャラリーnoir/NOKTA
2014/9 「森の欠片」 ART SPACE 繭 京橋
2015/2 「冬の朝」 FUURO 目白
2015/5 「水田典寿」展 Gallery SU  麻布台
2015/6  69 craft street グループショー 松本
2015/8 「日々のくらし展」 アトリエ 福生
2015/8「家をめぐる物語展」 ギャラリーNOKTA 静岡

     続編 「水田さんのおじいさん」                                                                                                               2015/8/31

                                                               2015/8/22-9/5 「日々のくらし展」 アトリエ 福生
2015/8/22-9/5 「日々のくらし展」 アトリエ 福生

5年ほど使われていた福生にあるアトリエを引き払うことになり、アトリエ内にあるものと展示作品の全てを公開して販売しますというので、慌てて最終日に伺いました。前回のインタビューで時々登場するおじいさんの話題が気になり、ちょっと立ち話です。

お祖父さんはなんでも作るのが好きな人だったんです。作家というレベルではないけれど。
だけど面白いことが好きで、歴代総理の顔人形とか(爆笑)。それを作る為の道具も作っていました。
発想がおもしろくて。すごいちっちゃい洗濯バサミを作ったり。人形の髪を一本一本とっておく為のものらしかったけど。両親が仕事をしていたので、小さい頃はおじいちゃんと遊んでいることが多くておじいちゃん子。絵を描くのも好きだったな。戦後は収入の為に漢字を書いてアメリカ兵に売っていたらしいんです。古布をハンカチ程度に裁断して、富士山の絵を描いてお土産として売っていたんです。自転車に漢字を書いてあげたり、看板を描いてほしいという依頼があったり。それでペンキ屋さんになったんです。
受け継いで塗装業を営んでいた父は僕が19歳の時に他界しました。祖父はからくりも好きだった。

箱の中にベンチを作り、女の子と男の子がベンチに座っていて。自動販売機もあって、もう一人の女の子がジュースを買おうとしている。1円を入れると、たぶん乾電池が入っていて通電して男女がキスしそうになって、女の子が2人の方をみようとする。(笑)

ユーモアのセンスもおありなんですね。

いやいや 造形的にぜんぜんなんだけど。他には発砲スチロールを薄く切って動く飛行機を作ったり、熱の対流を使ってプロペラを作ってみたり。

おじいちゃんの作品は今は?

えっと、いくつか残っていたんですけど、保存のきかない素材ばかりで。バラバラになったりしてね。僕と相方が作業場が一緒だったんですけど、僕らのいらなくなった廃材をおじいちゃんが拾って何かに作り替えていましたね(笑)

へ~ぇ。みんなでそれぞれ一緒に何かつくっている感じが楽しそう。モノづくり大好きなおじいさんと塗装業のお父さんと水田さん、受け継いでますね。

母方は群馬で織物業を営んでいたので、小さい頃は遊びに行くと織機を見ていましたよ。      (完)                             

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